塾を長年やっていると、子どもたちの成績の推移にはいろいろなパターンがあります。
入塾当初は思うように点数が取れず悔し涙を流していた子が、少しずつ自信をつけ、波はありつつも確実に成績を伸ばしていく。こうした生徒を見ていると、本当に嬉しく、やりがいを感じます。
ところが、実は塾をやっていていちばん「怖い」と感じるのは、別のタイプの生徒なのです。
成績が「上がり続ける」生徒がなぜ怖いのか?
誤解を恐れずに言えば、入塾以来ずっと成績が右肩上がり、テストのたびに自己ベストを更新し続ける生徒がいます。もちろん素晴らしいことなのですが、実は塾長としては、こうした生徒に一抹の怖さを覚えるのです。
なぜか。
それは、成績が上がり続けている間は、その子がまだ「失敗」や「挫折」を経験していない場合が多いからです。
塾に通う目的は、点数を取ることだけではありません。むしろ本当の目的は、「思うようにいかないことに出会ったとき、自分の力で立ち上がる力をつける」ことにあります。私はそう思って指導を続けています。
ところが、成績が上がり続けていると、自分の成長を疑うことがなくなり、どこかで慢心や過信が芽生えてくる。さらに怖いのは、いざ壁にぶつかったとき、その初めての挫折にどう対処していいかわからず、大きく崩れてしまうケースがあるのです。
「負け」を経験することの大切さ
人は、負けたり、うまくいかなかったりした経験から多くを学びます。
例えば、テストで思ったより点数が取れなかったとき、「何が原因だったのか」「どうしたら次はできるのか」と自分を振り返る。その作業こそが、勉強という行為を通して手に入れられる、本当に大きな財産だと思うのです。
hal学習塾で大切にしているのは、「自律・自重・自発」の3つの『自』です。これはまさに、どんな成績であれ自分を客観視し、自分を律し、自分の意志で動ける子を育てたいからです。
成績が波を打つのは当たり前。むしろそれは、自分を見直すチャンス。
そうやって「負け」を知り、それを乗り越えてきた生徒ほど、最終的にはぐんと伸びていきます。
ずっと上がり続ける子ほど声をかける理由
だから、成績が順調すぎる子ほど、私はわざと厳しめの声をかけることがあります。
「今は順調だけど、この先うまくいかないときが必ず来るよ。そのときの準備はできている?」
「満点がゴールじゃないよ。そこから何を学ぶかだよ。」
成績がいい子ほど、周囲も「すごいね!」「やればできる子だね!」と褒めるばかりで、危機感を伝える人がいなくなりがちです。だけど私は、その子がいざ壁にぶつかったときに、一人で立ち向かえるようにしておきたいのです。
だから、成績が上がり続けている子ほど、本当は塾にとって一番心配な存在だと感じています。
成績は上がったり下がったりするもの
hal学習塾には、5教科200点台から470点台まで、幅広い層の生徒が在籍しています。
入塾後すぐに点数が上がる子もいれば、なかなか結果が出ない子もいます。でも、多くの子が最終的に成績を伸ばしていくのは、必ず「下がった経験」を経ているのです。
上がり下がりを繰り返しながら、でも全体としては右肩上がり。この「ギザギザの成長曲線」こそ、本物の力が身についている証拠だと思います。
私自身もそうでした。仙台市立沖野小、沖野中、仙台一高、そして宮城教育大学と進んできた中で、うまくいかないことばかり。でも、その経験があったからこそ、今塾を一人で運営しながら、子どもたちを支える力になっています。
勉強は、壁を越える旅の連続です。だからこそ、成績が波を打つことを恐れず、むしろそこから多くを学び取ってほしいと思っています。